「その金額は、身に覚えがありません」。もしも、事務所というものに口があったとしたら、
少しとがらせて、こんなふうにでも言うのだろうか。松岡農林水産相の資金管理団体の
事務所を巡る光熱水費の謎は、そんな空想を誘う。
議員会館にある事務所の光熱水費は、もともと無料だという。従って、政治資金収支報告書に
事務所の光熱水費として計上された5年分の約2880万円は、「事務所くん」には
本来なら覚えのないものだろう。それともこの事務所には、無料の対象から外れるような特別に高価な仕掛けでもあるのだろうか。
空想のついでに、イソップ物語の「木こりと斧(おの)」の話に飛んでみよう。
木こりが誤って斧を川に流してしまう。現れた神が金の斧を手に「お前のか」と聞く。
正直者の木こりは違うと答え、次に神が示す銀の斧でもないと言う。最後に本人の斧を
出すとうなずいたので、神は三つとも、木こりに与えた。
それを聞いた男が、わざと斧を流す。神が金の斧を示すと「それだ」と答え、自分の斧も
没収されてしまう。
松岡氏と同様に議員会館だけを事務所にする幾つかの議員のところでは、
光熱水費は計上されていないという。「うちの事務所の水は、他のとは違って金の色」と
でも言うのでは、「斧」を失うことになるだろう。
松岡氏のホームページには「真実一路」が信条とある。北原白秋が「巡礼」でうたった。
「真実一路ノ旅ナレド、/真実、鈴フリ、思ヒ出ス」。その立派な信条に沿って、
鈴を振って思い出し、よく説明してみてはどうか。
http://www.asahi.com/paper/column.html
5 or 6.